『限局性激痛』 ソフィ・カル
『限局性激痛』
ソフィ・カル 著 / 青木真紀子,佐野ゆか 訳
平凡社 / B6変型判 / 304P
フランスを代表する現代アーティスト、
ソフィ・カルの痛みと治癒の物語、待望の邦訳。
1999~2000年、2019年に東京・原美術館で展示された「ソフィ・カル―限局性激痛」に未邦訳分を新たに訳出した完全版。
ソフィ・カルの希望により、日本語版の造本は布張りのカバーに箔押しのタイトル、赤金のインクで三方を塗り上げた。
近現代美術キュレーター・岡部あおみによる日本語版解説を付す。
【本書より】
限局性激痛:(医学用語)局所の鋭い痛みのこと。
10月25日に出発したときは、この日が92日のカウントダウンへの始まりになるとは思いもよらなかった。
その果てに待っていたのはありふれた別れだったが、とはいえ私にとってそれは、人生で最大の苦しみだった。
私はこの滞在のせいにした。
フランスに帰国した1985年1月28日、厄払いのために、滞在中の出来事よりも私の苦しみを語ることにした。
そのかわりに、話し相手になってくれた友人や偶然出会った人たちにこう尋ねた。
「あなたがいちばんつらかったのはいつですか?」
このやりとりは、自分自身の話をさんざん人に話して聞かせて、もう語りつくしたと感じるか、他の人たちの苦しみと向き合って、自分の痛みが相対化されるまで、続けることにした。
この方法には、根治させる力があった。
ソフィ・カル(Sophie Calle)
1953年、フランス・パリ生まれ。大学を中退して世界各地を旅した後パリに戻り作家活動に入る。テキストと写真、時にはオブジェや映像を組み合わせた独自のインスタレーション作品を発表し、1999~2000年に本書と同名の「限局性激痛」展を東京・原美術館で行う。著書にBlind(Actes Sud)、The Address Book(Siglio Press)、Double Game(Violette Editions)、邦訳に『本当の話』(平凡社)、『なぜなら』(青幻舎)がある。2024年高松宮殿下記念世界文化賞絵画部門を受賞。