『大邱の敵産家屋 地域コミュニティと市民運動』 松井理恵
『大邱の敵産家屋 地域コミュニティと市民運動』
松井理恵 / 共和国 / 四六判上製 / 248P
植民地期の遺産を逆手にとって。
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韓国第3の拠点都市・大邱(テグ)。「たいきゅう」と呼称された日本の植民地時代、詩人の森崎和江が生まれたことで知られるこの都市の一隅では、いまも「敵産家屋」(日本式住宅)が、幾度かの修復を経て商店や町工場として保存され、活用されている。
数々の現地でのフィールドワークを通して、コミュニティや市民運動の拠点としてこれらの「家屋」を利用しつづける人びとの肉声を拾いあげ、戦中~戦後にいたる韓国現代史に位置づける試み。
本体2700円+悪税
目次
序章――なぜ「敵産家屋」なのか
1、 三徳初等学校の教頭先生の官舎
2、 抵抗と適応
3、 植民地支配に関する認識と今日の社会構造
4、 地域コミュニティと敵産家屋
5、 本書の構成
第1章――なぜ北城路に敵産家屋が立ち並ぶのか
1、 韓国の地方都市・大邱
2、 人口からみた大邱の日本人植民者
3、 日本人植民者と北城路の成り立ち
4、 植民地支配下の繁華街から工業地区へ
5、 郊外移転と空洞化
6、 北城路の町工場が果たす役割
7、 なぜ北城路に敵産家屋が立ち並ぶのか
第2章――敵産家屋で工具を売り、機械を作る
1、 韓国の都市コミュニティ
2、 物資不足と品物の融通からの出発
3、 商品の製作過程と町工場の協働
4、 社会的に維持されるコモンズとしての北城路
5、 地域コミュニティが維持する敵産家屋
第3章――敵産家屋を都市の歴史に位置づける
1、 敵産家屋と大邱の歴史
2、 「まちかど文化市民連帯」とその活動
3、 『擇里志』と『大邱新擇里志』
4、 大邱の来歴と開発の論理
5、 敵産家屋に住む人びとの語り
6、 敵産家屋を人びとの経験から捉え返す
7、 歴史から都市の現状を相対化する
第4章――敵産家屋が可視化する地域コミュニティの履歴
1、 韓国の都市再生プロジェクトと敵産家屋
2、 北城路近代建築物リノベーションとよそ者の流入
3、 工業地区における歴史的建築物の保全
4、 歴史的に異なる時代が混在する新たな景観
5、 生活実践の履歴の可視化
終章――地域コミュニティに受け継がれる敵産家屋
1、 北城路再開発の動きとリノベーションの限界
2、 アーバニズムの江南化
3、 ローカリティの商品化
4、 資本主義の歴史的展開と市民運動
5、 抵抗の拠点としての敵産家屋
補章――植民地朝鮮の大邱を読み継ぐ
1、 森崎和江について
2、 韓国語版『慶州は母の呼び声』翻訳と出版について
3、 韓国の読者からの反響
4、 植民二世の生とインターセクショナリティ
5、 事後的な特権の発見
6、 出逢いそこねた物語を読む
7、 植民地朝鮮の大邱を読み継ぐ
註
参考文献
あとがき
初出一覧
前書きなど
《本書は、植民地支配を受けてなお存在しつづけた北城路――敵産家屋がいまだ立ち並ぶ北城路――にこそ、向き合わなければならない。取り替えしがつかない、回復不能な状況にまで至った都市の中から北城路を見出す手がかりとなるのは、植民地時代から受け継がれてきた地域コミュニティの記憶である。この記憶を受け止め、未来につなげようとする市民運動の展開を描くことによって、ポスト世代が植民地支配構造と向き合う方途を探ってゆきたい》
――「序章」より