『韓国の今を映す、12人の輝く瞬間』 イ・ジンスン
クオンインタビューシリーズ03
『韓国の今を映す、12人の輝く瞬間』
イ・ジンスン 著 / 伊東順子 訳
クオン / 四六判並製 / 360P
韓国社会の片隅で
小さいけれども確かな光を放つ122人の声を丁寧に拾った
ハンギョレ新聞の長期連載の一部を書籍化。
韓国で刊行5年・14刷を重ねる異例のインタビュー集。
「韓国生活30年」のライター 伊東順子(『韓国 現地からの報告』など著書多数)が翻訳、各章に書き下ろしコラムも掲載。
元JTBC「ニュースルーム」アンカー、立命館大学客員教授
ソン・ソッキ 推薦の辞
「イ・ジンスンを最も彼女らしく表現できるのがこの本に収録されたインタビューであることは間違いない。世の中には多くのインタビュー集があるが、「人」に着目することで社会を浮かび上がらせたものはそう多くないだろう。毎回、長いインタビューをしながらも惰性に陥ることなく、「人」に対する愛情を見せてくれた彼女の仕事ぶりがありがたく、感嘆しながら見守ってきた。「六十にして耳順う」とからかわれていた頑固な彼女から、こんな成果物が出てくるとは想像もできなかったが、それでも常に、彼女に対する信頼があった」
インタビュイー推薦の辞
●小説家、黄晳暎(ファン・ソギョン)
「私は、彼女がこの新聞連載を始めた当初から記事を読み、私もいつかインタビューイーを選ばれることを密かに期待していた。そしてついに私の番が来た。長時間にわたって質問を受け、追及され、不明瞭な点を追加インタビューで確認される過程を経てはじめて世間に知られている作家としての「私」の客観性を理解することができた。すっかり忘れていた自らの過ちが暴き出される苦痛と自責の念も感じた。わずか三日間のことだったが、イ・ジンスンはいつの間にか私の内面に入り込み、そして出ていった」
●亜州(アジュ)大学病院 京畿南部地域重症外傷センター長、イ・クッチョン
「イ・ジンスンは、自分の書く短い文章では生と死に対して細かく、正確に表現しきれないと言ってもどかしそうにしていたが、私は彼女の文章の行間にある鋭い断面から、彼女の本気と誠実さを感じた。私は、そんなイ・ジンスンの真摯な生き方に心から感謝を表したい。万年筆で、再生用紙に一文字一文字、ぎゅっと力を込めて書かれたようなこのインタビュー記事は、内容とは関係なく私の心に残り、いつまでもデスクの上からなくなることはなかった」
●映画監督、イム・スルレ
「インタビュアーは、インタビューイーの心を開かせて内面に閉じ込められた小さな声を外に引き出せば終わりなのではなく、明確で具体的な言葉に整理していくことが肝心だ。私の平凡な返答に意味と潤いを与え、美しく色づけしてくれたイ・ジンスンのインタビューは、やはり評判通りだった」
目次
プロローグ
第一部 心の命ずるままに
どうしてそこに行ったのかって?
三人の子どもの父親だからです|キム・ヘヨン
期待もしない、希望もない、でも原則は捨てない|イ・クッチョン
私はもっと勇敢であるべきだった|ノ・テガン
淡々と生きるための、揺るぎなさ|イム・スルレ
第二部 傷ついた心を抱きしめる
大韓民国の老害たちの人生から自分自身を知る|チェ・ヒョンスク
苦しみの話を、苦しみながら聞いてくれる人|ク・スジョン
私はレズビアンの母親、フォミです|イ・ウンジェ
原始的感覚の力|ソン・アラム
第三部 懐疑と拒絶で選んだ人生
無事におばあちゃんになれるだろうか|チャン・ヘヨン
ピンクのソファを蹴って出てきた「優雅なマッド・ウーマン」|ユン・ソンナム
英雄でも愚か者でもない民草たちの語り部|黄晳暎
正解はない、無数の解答があるだけ|チェ・ヒョングク
偉大にて、卑小な、すべての人々へ 日本語版刊行に寄せて
訳者あとがき
前書きなど
「プロローグ」より
「今まで会った人の中でいちばん立派だったのは誰ですか?」
ハンギョレ新聞土曜版にコラムを連載しながら、もっとも多かった質問だ。二〇一三年六月から連載を始めて五年あまり、これまで隔週に一回のペースで会った人は百二十二名。その中で、まさに非の打ち所がないほどの純粋な情熱と強い信念を持ち、さらに寛大さをも兼ね備えた「ベスト・オブ・ベスト」は誰なのか。皆が気になるようだが、私の答えは簡単だ。
「この世の中に、そんな立派な人はいません」
インタビューを通して出会った人すべてが、私にとって感動であり喜びであり希望であったけれど、皆が期待するほど偉大でも立派でもなかった。試練の時を過ごした人ほど、心に深い傷を負い、孤独と恐怖に苦しみ、自責する人々だった。「白馬に乗った超人」のような人は、実際にはいないのだ。
そもそも、挫折を乗り越えて成功した、立身出世的な人を探そうと思ったのではない。誰もがそうであるように、私がインタビューした彼らもまた、軟弱で卑屈で気弱な普通の人々である。彼らの生き方が読者に共感と感動を与えたとしたら、それは彼らが揺るぎない態度で誤謬なき人生を歩んだ偉大な人物だからではない。挫折の痛みやうんざりする日常の中でも、世の中に対する希望と、人々に対する期待の糸を離すまいとしたからだろう。
誰の人生も完璧に美しいわけではない。しかし、誰にでも一撃のチャンスはある。人生のある瞬間に自身のもっとも善良で美しい情熱を引き出し、一瞬の輝きを見せる人たちがいるからこそ、世の中は滅びることなく前進していく。世の中を明るくするのは偉大な英雄たちが高々と掲げる不滅の篝火ではなく、クリスマスのイルミネーションのように点いては消える、平凡な人々の短くも断続的な輝きだと私は信じている。挫折と傷と恥辱にまみれた日常の中で最善を尽くし、自分だけの光を放つ平凡な人々の特別な瞬間を記録したかった。