『夏みかんの午後』 永井宏
『夏みかんの午後』
永井宏 / 信陽堂 / B6変形判上製 / 176P
美術作家であり、エッセイや詩を数多く残した永井宏さんは、数編の愛すべき小説も残していました。本書は2001年にサンライト・ラボから出版されて以来、静かに読まれ続けてきた作品の復刊です。主人公は何かが始まる予感を胸に、東京を離れ海辺の町、葉山で暮らしはじめたばかりのフードスタイリスト、志田エリ31歳。大都市と郊外、何かに追いかけられるような時間と、手を動かし、ものを作るささやかな生活……自分の価値観を誇りに海辺に暮らす人々と出会い、少しずつ解放され新しい時間を生きはじめた女性の姿を描く短編小説。「砂浜とボート」を併録。初版から20年以上の時を経て、なおこころに響く海辺のフォークロアです。
巻末には永井さんのワークショップに参加していた小栗誠史さんのエッセイを収録。
目次
夏みかんの午後
1 海辺はいつもいい天気
2 波の上の散歩
3 イルカのキス
4 海辺のフォークロア
5 ハードハウス
6 バック・イン・タウン
7 夏の宿題
8 夢の庭
9 ニュー・ムーン
砂浜とボート
永井さんは文化の入口 小栗誠史
版元から一言
『サンライト』『愉快のしるし』『雲ができるまで』などで再評価が進む作家・永井宏さん(2011年没)が残した短編小説の復刻です。
主人公は東京での仕事に行き詰まりを感じ湘南葉山に移り住んだ女性。自分たちの価値観を大切にして、都会にはない時間を生きる人たちとふれあう中で、新しい暮らしの形を見つけてゆく姿がみずみずしく描かれます。2001年に発表された作品ですが、コロナ禍を経て、2拠点生活やリモートワークなど働き方と生き甲斐の質が変化した今だからこそ響くものがあります。