『日常の言葉たち』 キム・ウォニョン、キム・ソヨン、イギル・ボラ、チェ・テギュ

『日常の言葉たち 似ているようで違うわたしたtの物語の幕を開ける16の単語』
キム・ウォニョン、キム・ソヨン、イギル・ボラ、チェ・テギュ 著 / 牧野美加 訳
葉々社 / 四六判仮フランス装 / 400P

キム・ウォニョン(作家・ダンサー・弁護士)、キム・ソヨン(読書教室運営)、イギル・ボラ(作家・映画監督)、チェ・テギュ(獣医)という、背景も活動分野も異なる4人によるエッセイ集。

コーヒー、靴下、テレビ、本といった身近な存在の言葉をはじめ、ゆらゆら、ひそひそ、ひんやりなどの状態や様子を示す言葉について、それぞれが文章を綴る。

4人の文章に触れることで、新たな気づきや視野の広がりが感じられる1冊。
牧野美加さんのなめらかな日本語訳が心地よいリズムを刻む。

前書きなど
本書は、キム・ウォニョン、キム・ソヨン、イギル・ボラ、チェ・テギュという、背景も活動分野も異なる四人によるエッセイ集である。始まりは、あるラジオ放送局のポッドキャストプロジェクトだった。担当者が二週間に一度、身近な「言葉」(キーワード)を提示すると、四人が各自その言葉から浮かんだ考えを録音し、それをポッドキャストで配信するというものだ。プロジェクトで提示された言葉は全部で一六個。コーヒー、靴下、テレビ、本、といった日常に存在する物のほか、ゆらゆら、ひそひそ、待つこと、ひんやり、など、状態や様子を表す言葉もある。配信後、話した内容を各自が原稿にまとめ、それを一冊の本にしたのが本書だ。一六のキーワードで四人が綴った計六四のエッセイは「繰り返されるリズム」「ささやく物たち」「動く心」「静かに流れる時間」の四つのテーマに分類して収録され、各テーマにつき一本の「まとめ」的なエッセイも加えられている。ちなみに、このポッドキャストには、ろう者である両親にも内容がわかるよう手話通訳付きで配信してほしいというイギル・ボラさんの提案により、すべての回で手話通訳の映像がつけられた。これは、韓国初の試みだという。

 四人の著者について紹介しよう。一九八二年生まれのキム・ウォニョンさんは、生まれつき骨が折れやすい骨形成不全症という難病のため、歩くことができない。そのため小学校には通えず、幼いころは家と病院だけで過ごしていた。一四歳のとき、親元を離れて特別支援学校の中等部に入学、入寮し、車椅子を使いはじめる。その後、一般の高校、ソウル大学社会科学部社会学科を経て同大学ロースクールに進学。弁護士の資格を取得したあとは国家人権委員会で働いた。現在はおもにダンスや演劇など身体を使って表現するパフォーマー、作家としての活動に力を入れている。「大韓民国障害者国際舞踊祭(KIADA)」をはじめ、国内でも数多くのステージでダンスや演劇を披露しているほか、ヨーロッパの複数のダンスフェスティバルに招待されるなど世界を舞台に活動している。著書に、自伝的エッセイ『希望ではなく欲望』(クオン/牧野美加訳)、人間の尊厳や美しさについて論じた『だれも私たちに「失格の烙印」を押すことはできない』(小学館/五十嵐真希訳)、障害とテクノロジーのより良い関係を模索する『サイボーグになる』(キム・チョヨプとの共著/岩波書店/牧野美加訳)、短編小説『わたしたちのクライミング』(未邦訳)などがある。二〇二三年秋には初の来日トークイベントも行い、日本の読者と交流した。

 キム・ソヨンさんは梨花女子大学国語国文学科卒業後、複数の出版社で児童書の編集者として十数年働いたのち、二〇一三年から子どもの読書教室を運営している。おおむね小学校二年生以上の子どもを対象に、「子どもを『生涯本を読む人』に育てる」「読むことを恐れない大人になるよう『読む筋肉』をつける」を目標に、おもにマンツーマンで授業を行う。著書に『児童書の読み方』『話す読書法』(未邦訳)などがあり、子どもたちとのエピソードを集めたエッセイ『子どもという世界』(かんき出版/オ・ヨンア訳)は日本でも翻訳出版されている。

 一九九〇年生まれのイギル・ボラさんは、ろう者の両親のもとで生まれ育った「コーダ(CODA)」(Children of Deaf Adults)で、現在「CODA KOREA」の代表を務めている。高校一年のときアジア八カ国を八カ月かけて旅したのち学校には戻らず、数年後あらためて韓国芸術総合学校の放送映像科に入学。卒業作品として制作したドキュメンタリー「きらめく拍手の音」は、ろう者の両親の日常を娘の目線で捉えた作品で、第一五回障害者映画祭大賞など複数の賞を受賞した。同名のエッセイは日本でも翻訳出版されている(リトル・モア/矢澤浩子訳)。続いて監督したドキュメンタリー「記憶の戦争」では、ベトナム戦争中の民間人虐殺事件に迫った。この二つの映画は日本でも上映され、トークイベントも開かれた。著書はほかにも『あなたに続いて話す』『やってみないとわからないから』『苦痛に共感するという錯覚』(いずれも未邦訳)などがある。本書で言及されている「日本人パートナー」とは二〇二三年九月、ソウルで結婚式を挙げた。式では、イギル・ボラさんの母語である手話を第一言語として使用し、通訳士がそれを韓国語、日本語の音声言語に通訳したという。

 子どものころから動物が好きだったというチェ・テギュさんは、大学卒業後、家畜を診療する動物病院で十数年間、獣医として働いた。本書に登場する「飼育熊」の問題に触れたのを機に、大学時代から興味のあった動物福祉を学ぶためイギリスのエディンバラ大学に留学した。飼育熊とは、胆のうを採取するために飼育される熊を指す。薬としての胆のうのニーズは衰退したが、殺すわけにも放すわけにもいかず漫然と飼育されている熊が、いまも全国に三〇〇頭以上いるという。イギリスから帰国後、劣悪な環境で暮らす飼育熊のため「熊の巣プロジェクト(Project Moon Bear)」を二〇一八年に立ち上げた。現在はプロジェクトの代表として、獣医や訓練士、弁護士、アーティストらとともに活動している。飼育熊を救助し、より良い環境で暮らせる保護施設を建設、運営するのが目標だ。また、ソウル大学の博士課程で動物福祉を研究するかたわら、大学で動物福祉に関する講義もしている。著書に『動物が健康であってこそ、わたしも健康でいられるって?』『動物の胸の中で』(ともに共著、未邦訳)などがある。
 このような個性豊かな著者四人の視点を通して見ることで、ありふれた「日常の言葉たち」から実にバラエティーに富んだ物語が紡ぎ出されている。新たな気づきとともに視野を大きく広げてくれる一冊だ。本書でキム・ウォニョンさんが提案しているように、読んだ人も一六の言葉で物語を綴ってみるとおもしろいだろう。平凡な日常から、思いもよらぬ発見が得られるはずだ。(訳者あとがき)

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