『一週間、その他の小さな旅』 管啓次郎
『一週間、その他の小さな旅』
管啓次郎 / コトニ社 / 四六変形判並製 / 144P
詩をポケットに入れて、小さな旅へ出かけてみませんか?
「日本文学最高の文章家のひとり」と言われる著者がつづった詩集です。
管さんは、被災地・東北に何度もかよいます。
そこを旅した思い出をもとに書いた詩がここにあります。
身近な動物たちや自然への強い共感と信頼と憧れから生まれた詩もたくさんあります。
どれも何気ない日常の一コマから生まれた詩です。
微細であたたかい観察から生まれたことばの数々です。
どれも大切なことに気がつかせてくれる、そんなことばたちでもあります。
ことばを連れて小さな旅へと一緒に出かけてみませんか?
目次
一週間
To the Open Ground
千年川
Water Schools
三島/長泉詩片
東京詩片
ブリキのカメラ
夜の道
外に出たフィルム
犬と詩は
犬の詩四つ
犬ときつね
猫の詩3つ
シャルル猫
ウォンバット
コヨーテとオサムシ
里芋、大根、大豆
木について
ウェゲナー
小さな牛たち
蟻
草原に行こうよ
こころ
あとがき
前書きなど
あとがき
新聞のために詩を書くのはいい経験だった。それも元旦のための詩を。どうせ書くなら「福島民報」の読者の誰にとっても、楽しく読めて、ちょっと気分が改まる、そんな詩が書けるなら。二〇一八年から五年間にわたってぼくは「福島県文学賞」詩部門の選者を務め、それに付随する仕事のひとつがこの新年のための作品なのだった。本書の冒頭の「一週間」、中ほどにある「犬と詩は」、巻末の「こころ」は、こうして生まれた。
選考委員の仕事のいいところは、まったく思いがけない声と内容をもつ、詩人と名乗らない人々の作品に、次々に出会うことだ。なんども目をひらかれ、胸をつかれた。毎年くりかえし現れたのは震災の経験。深い哀悼に、それでも或るとき、明るい陽光がさしこむ。詩はいつも記憶と忘却のあいだを行き来するが、詩を作ることばの色合いもそれにつれて変わるようだ。そして時が介入する。「言」と「日」はつねに新しく出会いつづける。
もともと東北はぼくには未知の土地だったが、震災後、なんども訪れることになった。いろいろな光景を見たが、口にできることばもなく、文字はかたちにならない。ほんとうに美しい土地が多い。ある春の日、石巻市の大川小学校跡地を訪ね、北上川を眺めた。頭の芯がしびれたような気分だった。この詩集に収めた詩の中では、その思い出が「千年川」につながっている。「Water Schools」は名取市の閖上小学校、大川小学校、そして奥多摩町の小河内小学校の印象から生まれた。いずれの小学校も、いまはない。
旧・小河内小学校は、二〇二一年春に古川日出男を中心に制作した朗読劇『コロナ時代の銀河』の無観客上演の舞台。それをリアルタイムで撮影した映像作品(監督・河合宏樹)が公開されているので、よろしければYouTubeで「コロナ時代の銀河」を検索して、ぜひごらんください。最後の最後で、そこがどんな水辺の場所だったかがよくわかる。
ここには主として『PARADISE TEMPLE』(Tombac、二〇二一年)以後に書いた雑多な詩を集めた。第九詩集。犬猫好きのみなさんには、とりわけ楽しんでいただけることを願っています。
二〇二三年四月九日、狛江