『デイゴ・レッド』 ジョン・ファンテ
『デイゴ・レッド』
ジョン・ファンテ 著 / 栗原俊秀 訳
未知谷 / 四六判上製 / 366P
各ページに作家の才能が「瑞々しい草原に降り注ぐ陽の光のごとく」散りばめられている(『ニューヨーク・タイムズ』)
1940年に発表された短篇集としては、おそらく最高の一冊(『タイム』)
50年代アメリカのカウンター・カルチャー
ビートニクの先駆けと言われるジョン・ファンテ短篇集
本邦初訳!
ファンテはこのようにして、幼少期に授かったカトリック教育を「見世物」に仕立てあげ、「文化人類学的」とでも形容すべき興趣を作品に添えるのである。イタリア人移民の第二世代というファンテの出自は、こうした「見世物」を演出するうえで、尽きることのない豊かな源泉を作家に提供している。少年時代のコンプレックスを極端な戯画にして描いた「とあるワップのオデュッセイア」においてファンテは、自らに十字架のようにして背負わされた文化的背景を、小説の素材として徹底的に利用しつくしている。……中略……ファンテにしか書けない、ファンテだけの文学が、ここには力強く脈打っている。移民第二世代であるファンテが幼少期に感じていた「生きづらさ」の痕跡は、ファンテの著作のいたるところに顔を覗かせている。
デイゴ・レッドを飲み交わし、遠い故郷に想いを馳せる移民たちと同じように、ジョン・ファンテは書くことによって、「苦さのなかにほんのりと甘さが香る」記憶へと立ち帰ろうとする。幼少期の記憶とは言うなれば、作家の精神的な故郷とでも呼ぶべき空間である。イタリアと、家族と、信仰の香りをグラスから立ち昇らせつつ、「ワップのオデュッセウス」たるジョン・ファンテは、いつ終わるとも知れない航海を進みつづける。生涯にわたって繰り返された、帰りえぬ故郷へ帰りゆく旅の軌跡が、ファンテの文学には陰に陽に刻みこまれている。
(「訳者あとがき」より)