『港の人 付単行本未収録詩』 北村太郎
『港の人 付単行本未収録詩』
北村太郎 著 / 平出隆 解説
港の人 / 四六判上製,函入 / 128P
◎現代詩を代表する詩人・北村太郎は、近年、エッセイ集『光が射してくる』『樹上の猫』、北村太郎の日常風景を淡々と素朴な筆致で描いた『珈琲とエクレアと詩人 スケッチ・北村太郎』4刷、橋口幸子著、小説『荒地の恋』ねじめ正一著などで知られる。ファンからながく待望されていた、読売文学賞受賞の名詩集『港の人』を復刊する!
◎『港の人』には33篇の作品が収められ、詩人独自の死生観から社会を穿ち、根源的な生のあり方を照射する。
◎巻末には、あらたに発見された単行本未収録詩4篇を収録。北村太郎のやさしさに触れる詩篇でたまらなくいい。
◎解説は、詩人・平出隆。『港の人』についての解説のほか、詩人が目撃した北村太郎の生きようを丁寧に描き、北村太郎の魅力を語り尽くす。
◎函の装画は、岡鹿之助作「古港」。端正な装本がひときわ美しく輝いている。
◎港の人創立20周年記念出版
■収録作品より
1
暑い朝
たくさんの観念が
鼠いろになって目の前を通りすぎていく
それらは
とっても淋しい響きを残すわけでもないのに
音の幻としては
いつまでもうつ向いていたいくらいの
囁きである
色としては
濃淡がなさすぎて
もうすこしで
影になりそうに思える
そうやって
ほとんど観念が消えかかっているのに
〈ほら
〈もっと
〈早くしないと
汗をかきながら促しているんだから
観念は
別れを惜しみつつ
この世ならぬ
音と色とを考えないわけにはいかず
ツタの這う窓べに
■著者
北村太郎(きたむら・たろう)
詩人。1922年、東京の谷中に生まれる。戦前に同人誌「ル・バル」に参加。47年鮎川信夫、田村隆一らとともに「荒地」を創刊。66年第一詩集『北村太郎詩集』を刊行。以後数多くの詩集を上梓し、繊細な感性をもとに生と死を凝視した独自の詩世界をひらいた。その傍ら翻訳家としても活躍する。92年秋に死去。
おもな著書に、詩集『ピアノ線の夢』『犬の時代』『港の人』(読売文学賞)、エッセイ集『パスカルの大きな眼』『樹上の猫』『光が射してくる』ほか多数。著作集に『北村太郎の仕事』(全3巻)『北村太郎の全詩篇』がある。
■目次
港の人 1~33
単行本未収録詩
少年の夢/ある男の肖像/ねこ/水たまり