『山羊と水葬』 くぼたのぞみ
『山羊と水葬』
くぼたのぞみ / 書肆侃侃房 / 四六判並製 / 216P
吹雪もやんで、きらきらと雪原に光が反射して、目が痛いほど晴れわたる朝、山羊小屋から緊張した気配が伝わってきた。山羊が鼠捕りの毒だんごを食べたのだ。積雪は一メートルをゆうに超し、土まで掘るのはとても無理。凍った山羊の体を馬橇にのせて、吹雪のなかを石狩川の鉄橋へ。男たちが声を合わせて筵ごと持ちあげ、緑色の欄干の向こうへ落とす。水葬だ。水しぶきが見えたかどうか。白く煙る雪のなかに「それ」は消えていった。少女の記憶はそこでふっつり途切れる。 「山羊と水葬」より
アフリカやカリブ海出身作家たちの作品を数多く訳す翻訳家によるエッセイ集。