『エレメンツ』 鴇田 智哉
『エレメンツ』
鴇田 智哉 / 素粒社 / 四六変型判上製 / 128P
田中裕明賞受賞の前句集『凧と円柱』(2014年、ふらんす堂)よりおよそ6年後の著者第3句集。
火が紙にくひ込んでゐる麦の秋
ストローを銜へるひとりづつ霞
消ゴムに小暗い栗鼠をからめとる
いうれいは給水塔をみて育つ
ラクロスは兎の夢で出来てゐる
こはるびの粒々のパラシウトたち
t t t ふいにさざめく子らや秋
つきゆびは歌をとめどもなく辿る
あきらかに私の位置に鹿が立つ
「生えている句を作りたい、と思ってきた。草や花がそこにあるように、俳句もまたある。草や花が何かの代わりとしてそこにあるのではないように、俳句もまた何かの言いかえとしてあるのではない。(……)だから私は俳句を、記録や報告や手紙、あるいは日記とは違って、造形物とか音楽に近いものだと思ってきた。今もそう思っている。」(「あとがき」より)