『第九の波』 チェ・ウンミ
韓国女性文学シリーズ8
『第九の波』
チェ・ウンミ 著 / 橋本智保 訳
書肆侃侃房 / 四六判並製 / 384P
この作品は、2012年、江原道にある町で実際に起こった事件をモチーフにしているが、ルポや告発小説とは異なる。ソン・イナ、ユン・テジン、ソ・サンファという主人公を通して、一見平和そうな田舎の小さな町の裏側を生々しく描く。そこには富の分配から疎外され、不条理な生活を強いられた人々がいる。著者のチェ・ウンミは、陟州を金と権力によって手中に収めようとする者たちが現れるのも、私たちの生きている社会に問題があるのではないかと問い続ける。
作品の最後の方でソン・イナが、荒波が押し寄せては引いていく陟州の海岸をゆっくり歩いていくシーンがある。『第九の波』は、それでも私たちはこの社会で戦いながら生きていかなければならないという、チェ・ウンミ文学らしいテーマを垣間見せてくれる。
『第九の波』というタイトルは、19世紀ロシアの海洋画家イヴァン・アイヴァゾフスキーの代表作から取っている。