『パストラル ラミュ短篇選』 C・F・ラミュ
はじめて出逢う世界のおはなし 1910−1946
『パストラル ラミュ短篇選』
C・F・ラミュ 著 / 笠間直穂子 訳
東宣出版 / 四六判変形並製 / 295P
ごろごろする石。乾いた土。ながれる川の、吹いてくる風の、音。土や緑の、山羊や牛の、マッチの、におい。 遠くないところで戦争があり、でもここには、べつの戦いがある。べつの剝きだしの生が、ある。(帯文/小沼純一)
「火でも焚いてみるか?」「あたし、何も持ってない。あんたは?」「あるとも」——山羊の番をする少女のもとに、どこからともなく現れた14歳の少年。風の強い丘の草地、赤い燐マッチで火を熾した二人は隣どうし寝そべり、小石なみにカチカチのチーズを炎でとろりとさせパンにぬって食べる……。夕暮れどきの情景が、香りと音をともない彩り豊かに立ち現れる(表題作「パストラル」)。
規範的なフランス語と異なるスイス・ロマンドの地理に即した文学言語をもちい、恋、老い、農家のくらし、山の民話など、人間と、人間を取り巻く世界の根源的な姿を映し出す20作品。