『クレムスの曲がりくねる時間』 クラウディオ・マグリス
『クレムスの曲がりくねる時間』
クラウディオ・マグリス 著 / 二宮大輔 訳
共和国 / 四六変形判上製 / 144P
あきらめ、もどかしさ、喪失感……
イタリアの境界都市・トリエステの歴史と現在を縦横無尽に横断し、そこに生きる人びとを描きつづける現代イタリア文学の巨人による最新短篇集(原書2019年刊)。
初めて著者を知るには絶好の1冊。
「管理人」「音楽のレッスン」「クレムスの曲がりくねる時間」「文学賞」「ロザンドラ谿谷――外・日中」の5作品を収録。
詳細な「訳者あとがき」を付す。
《本書は、イタリアのドイツ語文学者クラウディオ・マグリスの、2025年現在で最新の短篇集だ。1939年、スロベニアに隣接するイタリア北東の港町トリエステで生まれたマグリスは、ドイツ語文学の研究者としてトリエステ大学で教鞭をとっていた。当初から文芸評論や翻訳などを発表していたが、1986年、ドナウ川について書いた大著『ドナウ』を刊行し、広く作家としても認知されるようになった。1997年には、トリエステとその周辺地域を舞台にした『ミクロコスミ』で国内最高峰の文学賞であるストレーガ賞を獲得している。
〔……〕マグリス作品の多くは、伝記とも、紀行文とも、小説とも呼べる、ジャンルのない知性の書だ。史実、見聞、虚構をないまぜにした物語を流麗な修辞技法を用いて書き散らしていく。その圧倒的な知識が評価されてか、ノーベル文学賞候補にも何度か名前が挙がり、そちらは受賞こそしていないものの、2016年にはチェコのフランツ・カフカ賞を獲得している。現代において国際的な名声を得た数少ないイタリア人作家だ。
マグリスの代表作『ミクロコスミ』の日本語版が、2022年1月に拙訳で刊行され、マグリスに謝礼のメールを送るタイミングだったので、「次は短めの作品を訳したいと思います」と追記したところ、本作『クレムスの曲がりくねる時間』を薦められた。2019年4月に刊行され、同年末までに4刷に達し、現在では英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語などに翻訳され、ヨーロッパを中心に確実に評価されている。メールのやりとりをした時点ですでに読み終わっていて、内容はそれなりに把握していたつもりだったが、翻訳するにあたり改めて原書を読み返して、彼が本作を薦める理由を納得せざるを得なかった。
先ほどマグリスの作品を「ジャンルのない」と評したが、実は明らかにフィクションだとわかる作品も書いている。その多くが史実を下敷きにしているが、この短篇集『クレムスの曲がりくねる時間』では登場人物自体は架空の存在で、フィクションの要素が濃い。それでも作品によっては主人公が文学賞の授賞式に呼ばれたり、講演をしたりと、マグリス自身と重なる部分も多い。そしてその一つひとつの物語に、マグリスが他の作品でも扱ってきた主題が凝縮されており、著者のこれまでの思考や主張が大いに反映された内容となっている。つまり、短篇であるがゆえに、そういったマグリスの特徴をより手早く感じ取ることができるのだ。これは著者自身が薦めてくるのにも納得がいく〔……〕》
――「訳者あとがき」より


