『両膝を怪我したわたしの聖女』 アンドレア・アブレウ
『両膝を怪我したわたしの聖女』
アンドレア・アブレウ 著 / 村岡直子,五十嵐絢音 訳
国書刊行会 / 四六判 / 208P
決 壊 す る 文 体
――圧倒的な感情がほとばしり、膨れ上がり自壊する言葉の群れが未熟な欲望を覆い尽くす。10歳の少女らを閉じ込めるひどく退屈な夏休み、早熟なふたりの過激で破滅的な友情。
スペイン最南カナリア諸島発、世界18カ国語に翻訳の問題作。
◇ ◇ ◇
スペイン・カナリア諸島に暮らす、10歳の「わたし」と親友イソラ。
せっかくの夏休みは、憂鬱な曇天に覆われていた。薄暗い貧困の地区を抜け出して、陽光のふりそそぐサン・マルコス海岸に出かけたいのに、仕事に追われる大人たちは車を出してやる余裕がない。ふたりの少女は退屈しのぎのため、不潔にして乱暴、猥雑で危うい遊びにつぎつぎ手を染める。
親友というには過激すぎる、共依存的関係性。
「わたし」にとってイソラはまるで聖女のように絶対的な存在だった。イソラが両膝を怪我すれば、舌でその血をなめとった。イソラの飼い犬になりたかった。粗暴な物語に織り込まれた緻密な象徴の数々。子どもらしいイノセンスとは無縁の、深い悲しみに由来する頽廃と陶酔の日々。
イソラと共にある日常は永遠に続くかに思われた。しかし――