『雨雲の集まるとき』 ベッシー・ヘッド
『雨雲の集まるとき』
ベッシー・ヘッド 著 / 横山仁美 訳
雨雲出版 / 四六判並製 / 288P
「ただ、自由な国に暮らすのがどういうことなのか、感じてみたいんです。そうしたら、僕の人生の邪悪なものが正されていくかも知れない」
アパルトヘイト時代、南アフリカ。政治犯として刑務所で二年間を過ごしたジャーナリストの青年マカヤは、国境近くに隠れて夜を待っていた。闇に紛れて国境フェンスを乗り越え、新たな人生へ踏み出すために。たどり着いたのは独立前夜の隣国ボツワナの村ホレマ・ミディ。農業開発に奮闘する英国人の青年ギルバートと出会い、初めて農業・牧畜に携わることになったマカヤ。しかし、非人間的なアパルトヘイト社会の南アフリカとはまるで違う、自由の国であるはずのボツワナにも抑圧者は存在した。マカヤはこの国の抱える人種主義や抑圧の問題、人間の善悪、そして干ばつの苦しみを目の当たりにする。深い心の闇を抱えたマカヤは、やがて村人との出会いで傷ついた自らの心を癒していくが……。
「人間がもっとも必要としているのは、他の生命との関わりあいだ。もしかすると、ユートピアもただの木々なのかもしれない。もしかすると」
南アフリカ出身の重要作家ベッシー・ヘッドが、亡命先ボツワナで発表した1968年の長編第一作、待望の邦訳。アパルトヘイトの抑圧から逃れ、自由を求めて国境を越えた青年マカヤは、ボツワナ農村の開発に関わりながら、差別や抑圧、人間の善悪を目の当たりにする。貧困、開発、宗教、民主主義、ジェンダー、部族主義と向き合い、鋭い筆致で人間の本質を描いたアフリカ文学の傑作。
版元から一言
アパルトヘイト時代の南アフリカに生まれ、ボツワナへと亡命した作家ベッシー・ヘッド。白人の母と黒人とされる父を持ち、人種差別政策の犠牲となりながらも、そのまなざしは常に「人間」に向けられていました。そんな彼女が1968年に発表した初の長編小説『雨雲の集まるとき』は、南アフリカの抑圧から逃れ、新たな生を求めてボツワナにやってきた青年マカヤを主人公に、農業開発に取り組む人々との交流を描きます。土地に根ざした人々の営み、人種差別や部族主義の呪縛、そして静かに流れる希望――詩情あふれる筆致と鋭い洞察が交差する物語は、今なお新鮮な問いを投げかけます。彼女が紡いだ言葉は、国や時代を超えて生き続けています。